Googleストアの外装箱(Pixel 3a XL)

デザイン部の杉﨑です。

ネット通販を利用すると配送時の商品の保護のために段ボールに梱包されて商品が届くと思います。

ところで、みなさんはその梱包箱をどのようにされていますか?

私はよくアマゾンで買い物をするのですが、早めに中身を確認しようと、すぐに梱包箱を開けます。それで注文内容と合っている事が確認できたら、すぐに梱包箱を崩して平らにし、マンションの資源ゴミ置場に捨てに行ってしまいます。

以前は段ボール箱をいくつか保管しておき、読まなくなった書籍を入れておいて、ブックオフなどに運ぶ用に活用していましたが、自分と同じように段ボールを捨てる方が多く、資源ゴミ置場にいけば簡単に手に入るのでら、一切手元に保管することがなくなりました。また、アマゾンの梱包箱は段ボール自体の強度が弱いため、収納の用途を果たしにくいことから、配送時の保護という役割を終えた瞬間、すぐに資源ゴミとして扱ってしまいます。

そんな中、Google製スマートフォン「Pixel 3a XL」をGoogleストアで購入した際、 その梱包箱に「進化」のようなものを感じた体験をしました。

送付元が「SINGAPOLE」となっていたので、海外から輸入されてきたわけですが、まるで「舶来品」に出会ったかのような印象でしたので、写真を交えながらお伝えしたいと思います。

きりつめられた設計の外装箱

「進化」というと、近未来的な素材でも使っているかのように思われる方もいると思いますが、残念ながら違います。使われているのは、一般的な梱包箱と同じような段ボール素材です(ただし、強度はアマゾンの段ボールよりは高いです)。

ではいったいどこに「進化」を感じたかと言うと、梱包箱の設計です。

梱包箱は、基本的に次のような用途を果たす目的で設計されます。

  • 運送時の衝撃に耐えながら、中身を保護
  • 梱包物が外に出ないよう、蓋はガムテープ等で留められる
  • 発送元/発送先の記された送り状を、目立つ表面に貼られる
  • 化粧箱のような凝ったデザイン性は求められていないが、中身が割れ物であったり、どちらが上向きであるか、何段まで積んで良いかを記したアイコンが情報として印刷されることがある

当然のことながら、Googleストアから届けられた梱包箱は上記を満たしていますが、それをぎりぎりまで簡素化するような設計がなされていたのです。

そのまま1枚の平たい段ボールになる箱

スマートフォンが送られてくるということで、こんな感じの梱包箱が届くんだろうなぁと考えていました。

しかし、実際に手元に届いたのは、次のような変わった箱でした。

少し視点を変えてみますと、上蓋の横の長さが底辺よりも長く、側面が少し中に入り込んでいます。

梱包箱を手に取って軽く振ると、梱包箱と中身の遊びがほとんどないような感触でしたので、もしかしたらこの上蓋と側面の空間がクッションのような役割を果たしているのかもしれません。段ボールの強度もあることから、横からの衝撃にも十分耐えられそうに感じました。

では上蓋から開けてみます。

目につくところに「Hi there.」というメッセージが白文字でプリントされていました。

さらに開けてみます。

ここで「Google Store」の文字と「Let’s play.」というキャッチコピー、そして本体が現れました。さらにリサイクルマークと「Please recycle.」のメッセージもプリントされています。

製品を取り出した後は、次のように1枚の段ボールになります。

一般的な梱包箱ですと、資源ゴミとして出すときは上蓋と下蓋を広げ、ひし形状にしながら平たくして潰すと思います。ただ、それだと紙の厚みや箱の折癖のため、複数枚重ねていくと崩れたり、かさ張ってしまいます。

一方、このGoogleストアの設計は、広げると平たい1枚の段ボールになるので、重ねても1枚分の厚みしかできません。資源ゴミ置場に置くときのストレスがまったくありませんでした。

無印良品の思想にも似た設計

1枚の段ボールになった梱包箱を手にしながら、「日本の几帳面な消費者を相手にする国内企業と違い、海外企業だからこんなに簡単な梱包で良いと思っているのかも」と思いましたが、一方で「輸送時の衝撃にも耐えられるし、捨てやすいし、これからの梱包箱はこれで十分かも」とも感じました。

とはいうもののの、開梱時にユーザーが順を追って目にするメッセージや、商品を取り出した後、1枚の平たい段ボールとして資源ゴミに捨てる時の体験を考えると、とても緻密にデザインされたものだと考えています。

この感覚は、無印良品の段ボール素材を活用した収納箱を手にした時と似ていると思いました。

私が無印良品の商品を目にしたのは、1980年代、西武百貨店内の店舗でした。最初は「段ボール素材なんて安っぽくて、部屋になんて置けないし、そもそも耐久性がないだろう」と思いましたが、手にとってみるとしっかりした作りをしていて、収納するには十分と思いました。試しに1つ買って部屋に置いてみると、思ったよりも安っぽさは感じず(むしろ馴染みました)、耐久性もあり、すっかり無印良品ユーザーになってしまいました(段ボールのファイルボックスは10年以上使っています)。

無印良品がどうしてそのような製品を生み出したそうと考えたのか疑問に思い、調べたところ、公式サイトに記載されていましたので、その言葉を引用します。

無印良品は地球規模の消費の未来を見とおす視点から商品を生み出してきました。それは「これがいい」「これでなくてはいけない」というような強い嗜好性を誘う商品づくりではありません。無印良品が目指しているのは「これがいい」ではなく「これでいい」という理性的な満足感をお客さまに持っていただくこと。つまり「が」ではなく「で」なのです。

しかしながら「で」にもレベルがあります。無印良品はこの「で」のレベルをできるだけ高い水準に掲げることを目指します。「が」には微かなエゴイズムや不協和が含まれますが「で」には抑制や譲歩を含んだ理性が働いています。一方で「で」の中には、あきらめや小さな不満足が含まれるかもしれません。従って「で」のレベルを上げるということは、このあきらめや小さな不満足を払拭していくことなのです。そういう「で」の次元を創造し、明晰で自信に満ちた「これでいい」を実現すること。それが無印良品のヴィジョンです。これを目標に、約5,000アイテムにのぼる商品を徹底的に磨き直し、新しい無印良品の品質を実現していきます。

無印良品公式サイト「無印良品の未来」より

この「で」という考え方は、Googleストアの梱包箱にも通じるものがあります。輸送される間、商品を保護する役割を果たすだけの箱ですが、箱を開けるときのユーザーの期待感、さらに捨てる時の体験を踏まえた設計で、無印良品が考えるような「理性的な満足感」を与えるのに成功していると言えるのではないでしょうか。

世の中には多くの物があり、それを入れる箱は今後もなくならないと思いますが、その一方で、箱に対する考え方も時代に合わせて変わっています。当社は化粧箱を中心に製造していますが、その化粧箱ですら、商品を出したら即資源ゴミになってしまいかねません。Googleストアの梱包箱に進化を感じたように、箱にはまだまだ可能性があると信じ、様々な観点からみなさまに提案し続けたいと考えています。