色と形の組み合わせによって表現できる印象は豊かに変わります。例えば赤色。インパクトのある色のうちの一つです。
同じ赤色を使って炎のイラストを描けば、火が熱いという知識と色の印象から暖かい印象をイメージすると思います。ガスバーナーのような青い炎だった場合、また印象は違うものになるでしょう。
炎は熱いという認識のように人類のほとんどが知っている知識からくる印象とは別に、地域の文化や歴史によっても印象が異なります。違いを知り、普通に考えて〇〇でしょとという言葉を発することができなくなってしまうことは、日常が彩りのある楽しい景色になる一歩だと信じているので少しずつ書いてみようと思います。
中国では受け入れられなかった
真っ白いパッケージ
今回は赤色。
赤色が持つ印象は文化によって少しずつ違ってきます。一つ例を挙げてみましょう。これは画廊を経営する独特な笑い方をするマダムが教えてくれた話です。
ある日本の美味しいお菓子屋さんが中国へ進出し店舗を拡大することにしました。A社としましょう。A社のウリはお菓子の味と、真っ白いパッケージでした。
A社にとって白色はシンプルで清楚なイメージを持ってもらうための色で、自信を持って長い間デザインとして選択されてきました。しかし、現地の関係者から中国で出店する際に、白いパッケージではいくら味が美味しくても思うような売り上げは望めないと不安になるようなことを言われてしまいます。私も突然うまくいっていた手法に対してNOと言われたら戸惑ってしまうと思います。皆さんはどうでしょうか。
今までの売り上げの裏付けがある上、こだわりの色だという気持ちが強かったのか忠告を受け流しA社はそのままの白いパッケージで出店してしまいました。そうするとなぜか今までと何も変わったところはないのに、売り上げが思うように伸びません。
味は文句なしに美味しいまま。美しいパッケージは傷や汚れもなく丁寧に理想の状態で陳列しています。突然天候が悪くなったり客足が落ちる出来事が起きたわけでもありません。もし外国に一つの目的のために移動して、自信ある行動を取った後予想外の大きな損失になる出来事が起きたら、多くのある一定以上の責任感を持つ人は少しの間パニックになったり落ち込んだりしてしまうでしょう。そして一息ついた後、自分を奮い立たせたら問題の解決策を探しますよね。
現地の人のアドバイスを思い出しませんか?パッケージの色についての指摘です。この例え話の担当者はちゃんと思い出したようで、詳しく話を聞くことにしました。結果、問題の解決策はパッケージを赤色をたくさん使うデザインに変更することという答えが出てきました。
実行してみると、パッケージ以外は何も変わらないのに望んだ売り上げが得られるようになりました。
どうして赤色が良かったのでしょうか?現地の人曰く、赤色は中国の文化でとても好まれていて、浸透しています。それゆえに赤色を使われた新しい製品は他の色よりも手に取ってもらいやすいそうです。なのでA社のお菓子もパッケージを変えることで、味を正当に評価してもらえるようになったということです。
プライドを持って使っていた真っ白のパッケージから赤色へデザインを変更する決断は大きな決断で実行するには勇気が必要だったでしょう。
中国の「赤」
英断を下した誰かさんを讃えながら中国の文化では赤色がどういう扱いなのか、また一般的にはどういう印象を持つのかを書き出してみます。
赤色は縁起のいい色とされていて、おめでたい瞬間には爆竹でそこらじゅうが真っ赤になります。婚礼や出産などハレの日と言われるようなタイミングでも赤はよく使われています。
日本では儀式性のあるおめでたいシーンでは白がよく使われていますね。
厄除けの意味もあり実際にどれだけの人が実行しているかは定かではありませんが、赤色の下着を身につけたりもするそうです。東京の巣鴨にある赤いパンツのお店のようなイメージでしょうか。ここぞという時に赤を着用するのか、いつも赤い下着をまとっていて勝負下着は別なのか、そもそもどんな下着のデザインが主流なのかきになることがたくさん湧いたので友人にたずねてみようと思います。
また赤色は私たちが頭の中でパッと思い浮かぶ中国のイメージカラーでもあります。ブルース・リーが赤色をまとっていた記憶はないのに不思議です。しかし料理や調味料も赤いものが多いですね。また中華街などで目にする逆さまの福と書かれた飾りや提灯、チャイナドレス、インテリア、様々な景色の一部になるものに赤色が使われていますね。福という感じが逆さまになっているのは福が降りてくるようにとげんを担いでいるそうです。縁起を重視する文化なように感じますね。
ちなみに白色はあまり縁起のいい色ではないそうです。歴史的な歌劇の京劇でも白色は陰険さを表し三国志の曹操役の隈取は白色だったりします。
また日本人が美しい白だと思っている真っ白よりも少し色味のある白色の方が好まれるそうです。A社の自信に満ちた白いパッケージは日本独特の文化と審美眼に由来していたのでしょう。
赤と食欲
A社の商品は食べ物だったので、色と食欲についても考えてみましょう。
五行思想という古代中国で始まった自然哲学があります。その中で五味・五色・五法という考え方があります。中国や日本、韓国でも料理に使われる考え方です。食事の中で五つの味・色・方法を取り入れると自然と心身ともに元気に過ごせるという考え方です。
赤色はこの思想の五色のうちの一で、野菜から果物、肉類、スパイスまで該当するものは多岐に渡ります。具体的にはトマトなどの赤い野菜類、肉や魚の赤身などです。
また五色は五臓に対応すると考えられていて赤色は心臓の働きを整えると考えられていました。食事が医療として考えられていた時代の知恵なのでしょう。
彩りを意識して作られた食事は視覚から食欲を刺激するのでしょう。
中国とは外れますが、エデンの園でイヴが手にした知恵の実は赤く罪の色の印象やセクシーさを印象づけることが可能です。しかし天使も赤色で描かれることがあります。悪魔は青色です。パッケージのデザインでも日本の懐石料理のように、入れ物という用途以外に目で楽しむ要素がたくさんありますね。
また文化を取り入れることで、パッケージに必要な色や商品のコンセプトに即した色選びをするためのヒントが増え、それぞれの持つセンスの輝きがさらにまばゆいものになるでしょう。(了)