デザイン部の杉﨑です。
2015年9月、東京都が都内の全世帯に向けて『東京都オリジナル防災ブック』を配布し、話題になりました。
都内に住む人は無料でいただくことができましたが、同年11月から一般販売も開始された際、購入希望者が殺到し、在庫切れを起こすことになったようです。
今ではAmazonでも購入することができます(Kindle版は0円です)。
この手の書籍を自治体が作るとダサいイメージがありますが、この『東京都オリジナル防災ブック』は、イラストが沢山使われていたり、紙面レイアウトや色づかい、ビニールカバーなど、しっかりデザインされていて正直驚きました。売り切れになるのも納得です。
ただ、もっと驚いたのはこの書籍がポストに入っているのを見つけた時です。書籍が送られてくる場合、一般的には封筒か普通の段ボール箱ですが、この『東京都オリジナル防災ブック』は、本の装丁をそのまま表現するような外装箱に梱包されていました。
今回はこの『東京都オリジナル防災グッズ』の外装箱を取り上げたいと思います。
外装箱に必要な全ての要素をデザインに落とし込む
「Googleストアの外装箱(Pixel 3a XL)」でもお伝えしましたが、外装箱は、基本的に次のような用途を果たす目的で設計されます。
- 運送時の衝撃に耐えながら、中身を保護
- 梱包物が外に出ないよう、蓋はガムテープ等で留められる
- 発送元/発送先の記された送り状を、目立つ表面に貼られる
- 化粧箱のような凝ったデザイン性は求められていないが、中身が割れ物であったり、どちらが上向きであるか、何段まで積んで良いかを記したアイコンが情報として印刷されることがある
この『東京都オリジナル防災ブック』の外装箱は、「何段まで積んで良いかを記したアイコン」はありませんでしたが、その他の要素は全て含まれています。ただ、もっとすごいのは、外装箱を見た瞬間、書籍の内容までも一瞬でイメージできるデザインです。
箱の片面は、書籍のタイトルとイラスト、さらにこれが東京都から送られてきた防災関連の品物であることが、文字を読まなくても黄色と黒という色使いから伝わってきます。
それをひっくり返すと、配送時に必要な情報が記され、それぞれの要素毎に丁寧にレイアウトされています。
側面にはタイトル、キャラクター、発送主といった基本情報のほか、配送先である「板橋区2」という文字とバーコードが印刷され、積み上げて保管しても配送担当者が判別できるように設計されています。
蓋を開けると、キャラクターの名前が「防サイくん」であることがわかり、さらに「今やろう」というメッセージを目にします。
最後に右側と上下の蓋を上げると書籍の全体が現れます。この時、書籍の下部に記された「LET’S GET PREPARED!」というメッセージを目にします。
外装箱自体はどこにも糊付けされておらず、型を抜いただけのシンプルな設計なので、資源ゴミとしても簡単に捨てることができます。
気になった点として、蓋を閉じたときの黒い斜線の印刷が、合わせの部分で若干足りないように感じますが、もしかしたらこの足りない空白部分で、「ここから開けてください」ということを示しているのかもしれません。
「デザイン」≠「デコレーション」
外装箱がこのデザインに落ち着くまで、おそらくかなりの試行錯誤があったと思います。
もしかしたら黄色地に黒文字と斜線、キャラクターを装飾的に印刷し、配送地区やバーコードはシール対応という案も想定できます。
もしそうなったら、制作工程で箱の印刷とシールの印刷を2回やる必要がでてきます。しかもシールを貼るという工程が加わるため、外装箱のコストはその分かかってしまいます。また、東京都の全世帯に配布するため、違うシールを貼るといった単純なミスが発生する可能性もあります。
この書籍は東京都全世帯に対して確実に配布されなければいけません。しかも無料ですので、コストは極力抑える必要があります。そういった課題をクリアするためにはどうすれば良いのか、関係者とデザイナーが検討した結果が、まさにこのデザインと言えるでしょう。
外装箱の可能性はまだまだありそうですね。